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庭の縁側に、奥さんがちょこんと座った。
歳のせいだろうか。さっきよりも少し、体が小さくなったように見えた。
「どうぞ」
僕が奥さんに手渡すと、少し警戒したように、そっと手にとった。
ビールは、二つ買ってきておいた。一つは奥さん。もう一つは…。
「…どうぞ」
奥さんの右側にそっと缶ビールを置いて、僕らは後ろに下がった。
傍にいては、水を差すから。
コップが、かたん、と動いた。
それと同時に、霧のようなものがふわりと現れ、人型を為し始めた。
伸びた霧が缶ビールを掴み頭部らしき場所に運ぶ。
美味いっ。
やがて顔まではっきりと逸平さんの形になると、そう一言もらした。
「逸平……。」
奥さんはビールを握りしめたまま、口をわなわなと震わせていた。
「逸平!」
奥さんが逸平さんを抱きしめようとした。だがその瞬間、逸平さんはふわりとまた霧に変わった。
「落ち着けよお袋。オレ幽霊だぜ?触れられる訳ねぇだろ?」
奥さんの動揺とは対照的に、逸平さんはからからと笑っている。
「オレの姿をふつーの人間に晒せんのも、ほんの少ししか出来ないんだと。まーこのビールは別なんだけどな。あいつらが、これだけは触れるようにしてくれた。」
逸平さんは、僕らに向かって笑いかけた。
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