+箱入り息子の旅立ち+

2/3
前へ
/125ページ
次へ
俺の親父は、世界的に有名な生物学者だ。 最近、とても珍しい生物についての研究が進んでいるらしく、ずっと研究所にこもりきりで。 俺、アリス=リュウキは、7歳の時に母親が行方不明になってから、この親父と一緒に暮らしている。……正確に言えば、家族とは名ばかりで、寝食を共にしているだけ。俺は、何一つ不自由せずに、惰性で毎日を過ごしていた。 世間知らずの、箱入り息子。 ある日、放任主義にも程がある父親が、世間知らずに言った。 「アリス、トザウサギを捕まえてきてくれないか?」 「……んだよ、それ。ウサギ?」 「シロウサギの仲間だよ。白く垂れた耳と、首などに生える白い体毛……」 「それじゃあ、普通のシロウサギと変わらないじゃねぇか。耳が垂れてるのも結構いるし……」 「それがだな、アリス」 ふぅ、と父親は息を吐いて、キィ、と椅子を鳴らした。 脚を組み直して、俺に話を続ける。 「瞳が、蒼いんだよ」 「……蒼?」 普通、シロウサギどころか、世界中のありとあらゆるウサギの瞳の色は、赤か黒だ。 親父の言う「トザウサギ」とやらの瞳は蒼いらしい。 ウサギに限らず、蒼い瞳をもつ生き物は、体内の構造が普通の生物とはずいぶん違うといわれている しかし、それは御伽噺の中の話なので、正直、生物学者の親父からその話が出てくるとは思ってなかった。 「……20万」 「は?」 「アリスがトザウサギを捕まえてきたら、20万やる」 「……その話、マジだろうな」 「今まで私が嘘をついたことがあるか? 「……よし、しゃあねぇ。行ってきてやるよ」 アリスは立ち上がり、ウサギ型のポシェットに携帯や、財布を詰め込むと、上着も羽織らずに研究所を出て行った。 すぐに帰るつもりでいたから。 アリス=リュウキ、15歳。 金と、可愛いものに目がない、困った箱入り息子。 ぼさぼさの黒髪、きつい紫の瞳は、いつもだるそうだ。 「つうか……何処だよ、トザウサギ……」 家を出たはいいものの、当ても何も無いアリスは、少し考えた末に、街に出ることにした。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

217人が本棚に入れています
本棚に追加