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俺の親父は、世界的に有名な生物学者だ。
最近、とても珍しい生物についての研究が進んでいるらしく、ずっと研究所にこもりきりで。
俺、アリス=リュウキは、7歳の時に母親が行方不明になってから、この親父と一緒に暮らしている。……正確に言えば、家族とは名ばかりで、寝食を共にしているだけ。俺は、何一つ不自由せずに、惰性で毎日を過ごしていた。
世間知らずの、箱入り息子。
ある日、放任主義にも程がある父親が、世間知らずに言った。
「アリス、トザウサギを捕まえてきてくれないか?」
「……んだよ、それ。ウサギ?」
「シロウサギの仲間だよ。白く垂れた耳と、首などに生える白い体毛……」
「それじゃあ、普通のシロウサギと変わらないじゃねぇか。耳が垂れてるのも結構いるし……」
「それがだな、アリス」
ふぅ、と父親は息を吐いて、キィ、と椅子を鳴らした。
脚を組み直して、俺に話を続ける。
「瞳が、蒼いんだよ」
「……蒼?」
普通、シロウサギどころか、世界中のありとあらゆるウサギの瞳の色は、赤か黒だ。
親父の言う「トザウサギ」とやらの瞳は蒼いらしい。
ウサギに限らず、蒼い瞳をもつ生き物は、体内の構造が普通の生物とはずいぶん違うといわれている
しかし、それは御伽噺の中の話なので、正直、生物学者の親父からその話が出てくるとは思ってなかった。
「……20万」
「は?」
「アリスがトザウサギを捕まえてきたら、20万やる」
「……その話、マジだろうな」
「今まで私が嘘をついたことがあるか?
「……よし、しゃあねぇ。行ってきてやるよ」
アリスは立ち上がり、ウサギ型のポシェットに携帯や、財布を詰め込むと、上着も羽織らずに研究所を出て行った。
すぐに帰るつもりでいたから。
アリス=リュウキ、15歳。
金と、可愛いものに目がない、困った箱入り息子。
ぼさぼさの黒髪、きつい紫の瞳は、いつもだるそうだ。
「つうか……何処だよ、トザウサギ……」
家を出たはいいものの、当ても何も無いアリスは、少し考えた末に、街に出ることにした。
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