其ノ一 ~山彦~

5/23
前へ
/44ページ
次へ
「ここではなんですし、どうそこちらへ。」   そういう一に案内されたのは、一の家だった。 一の家にあがると、女がお茶を出してくれた。一の妻だという。   「どうぞ。」   そう言い笑顔でお茶を出してくれたが、壱を見るその顔をには驚きの色が少し見られた。   「僕の顔に、何か?」   壱はそう聞くと、一の妻は慌てて顔を横に振った。   「いえ、ただ少し驚いてしまって。初めてお会いした方なのに、失礼かとは思いますが、もう少しご年配の方かと思っていたので…。」   申し訳なさそうに言う妻に、一は「おい。」と言った。   「そうでしたか。」   そう言い、壱は笑って見せた。笑った顔は、さらに幼く見えなくもない。 しかし、そんな顔から壱は真剣な顔へ変えた。   「それで、さっそくですが…」   壱がそう言うと、一の妻は小さく礼をして下がり、一は一つ頷くと話し始めた。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加