きっかけ

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始まりは本当にひょんなことからだった。 ある日、俺は全体練習のあとに個人練習をしていた。 1年が入ってレギュラー争いのキツくなったチームで俺のような下手くそが生き残るには数をこなすしかない。 そう考えて毎日最低3時間は自主練をするようになっていた。 ある日いつものように自主練をしていると 『先輩、なんか部室閉めちゃうらしいんで荷物とか持ってきましたよ。』 カオリちゃんはまるで罰ゲームでもしているように自分の荷物やら 俺のかばんやら 部活の道具やら 制服やらをもってきてくれた。 クリクリの大きな二重の目に小さく整った鼻。 肩で揺れるセミロングの黒髪。 155センチしかない、その華奢な身体いっぱいに荷物を抱え俺の方へと歩いてくる。 『あっ、ゴメンね。もうそんな時間か…。 でもほかの男どもにもってこさせればよかったのに。』 『これもマネージャーの仕事ですから、気にしないでください。』 『ありがと。じゃあ適当に着替えて帰るかな。』 着替えを済ませ荷物をかばんにつめていると "…あれ、財布がない!! 確か鞄に入れといたのに…" 『カオリちゃんおれの財布とか知らないよね?』 『えっ!!ないんですか?もしかしてあたしが荷物運んでくるとき落としたのかも。あたし探してきます。』 その言葉を言い終えるより早くカオリちゃんは部室の方へ走っていった。 "…ヤバいなぁ、早く見つけないとあの子にも迷惑かけちゃうしな…" そう思いながらまた財布を探し始める。 ガサガサ、ゴソゴソ、 "マジで落としたのかなぁ…どこやったんだろ…" 手当たり次第に探していると時刻はもう夜の10時になろうとしていた。 "あれ?もしかして教室の机か?" 幸いにも今日は定時制の生徒がいるため教室に入れた… 『あった!! いやぁーよかったぁ… やべ、カオリちゃん呼びに行かなきゃ。』 俺は部室へと走った。 しかしそこにカオリちゃんの姿はなかった。 "…あきらめて帰ったのかな、まぁ夜も遅いしな。" そう思い歩き出して何歩かいったところで暗闇になにかが見えた。 それは携帯のかすかな明かりを頼りに 必死で財布を探しているカオリちゃんの姿だった。
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