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どれだけ一生懸命探してくれたのかを、そのローファーは静かに物語っていた。
俺は胸の奥から込み上げてくるものを押さえることが出来なかった。
カオリちゃんにとっては、ほんの些細な事かもしれないが
俺にとっては彼女の優しくて健気で…
そんな暖かい心を知ることが出来た掛け替えのない出来事だった。
知らぬ間に俺は立ち止まってカオリちゃんを見つめていた。
『あれ?センパイどうしたんですか?』
『え、あ…!!ん!?な、なんでもないよ!!』
俺はごまかすように笑った。
なんだか急に恥ずかしくなってきて、素っ気なくなってしまった。
『ならイィんですけど…』
カオリちゃんは不思議そうに頭を傾けながら呟いた。
『もぅこんな時間だしダッシュで帰ろっか!ホントゴメンね。俺がアホなばっかりにこんなことになっちゃって…』
『そんな!!気にしないでくださいよ。私は全然平気ですから。
それよりセンパイのお財布が見つかってホントによかったですよ。』
言葉の節々にカオリちゃんの人間性が滲み出ている。
こんなに人の為に一生懸命になれる娘は、少ないのではないだろうか。
『ホントありがと!!よっしゃ、今日は俺がオゴるよ!!』
『えぇぇ?そんな!!悪いですよ~』
『なに遠慮してんだよ!!イィからイィから!!
さ、乗った乗った!!
しっかりつかまってろよ~』
『え、えぇぇ~?』
戸惑うカオリちゃんをチャリ置き場にあった誰かのチャリの後ろに乗せて、俺はペダルを漕ぎ出した。
いつもより少しだけ重くなったペダルが妙に心地よかった…。
駅に着き、さぁメシだ!!というところで俺は重大なミスに気が付いた。
―――残金36円。
今の世の中ではあまり大金ではない。
自分への情けなさと
こんな金額しか入っていない財布のために
カオリちゃんに大変な思いをさせてしまった罪悪感で愕然とした。
カオリちゃんに恐る恐る目をやると、彼女は笑いながら
『そんなことだろ~と思いましたよ。センパイどこか抜けてるところあるんですもん。』
と言ってイタズラっぽく笑った
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