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「今日サナエの家に泊まって帰るから。」
携帯を切り机のうえに置く。
「あんたまた泊まるわけ?」
「飯作るからいいじゃん。」
「あんた嫌なことがある度にウチにご飯作りに来るクセ直しなよ。」
サナエの文句を無視して冷蔵庫を物色する。
………ん!今日は鶏肉のイタリアンソテーだな。ホールトマト買いに行かなきゃ。
「買い物?」
「うん。お前も来る?」
「いく~!借りたいCDあるんだ。」
サナエは別に俺の彼女じゃない。
両親が亡くなり、引き取ろうとした祖父母の申し出を断わり、自分で奨学金を取って高校に通ってる。
その辺のアホなギャルと似たようなナリだけど、頭はすごくいい。
友達なんか一人もいないけど、サナエの家はもはや俺の第二の家と言ってもいいくらい、俺はサナエの家に通っている。
サナエの隣はなんとなく居心地がいい。
多分サナエも同じだから、小言を言いながらでも泊めてくれるんだと思う。
図書館で本も読まずにボケーっとしてたらいきなり隣に座られて、一方的に話し掛けてきた。曖昧な返事をしてたら、気付いたら部屋に連れていかれて飯を作らされていた。
それ以来の付き合いだ。
チーズとトマトソースと焼けた鶏肉の匂いが部屋に立ちこめる。
「夏休みの課題写させて。ってか手伝って。」
「いいよ。その代わりデザート作って。」
サナエはテレビを見ながら何事もないように言った。
そしてデザートさえあればだいたいの頼みごとをオッケーしてくれることを知っていた俺は、サナエがチキンソテーを食べおわったのを見計らって、冷蔵庫からレモンムースを取り出す。
「あんた明日も泊まりな。今日は寝て、明日一日でやってしまおう。」
ムースをうまそうにほおばりながらサナエは言った。「助かる。」
皿を洗いながらそう答えた。
風呂に入り、やることがなくなったのでとりあえず電気を消してサナエと同じベッドに入る。
サナエは俺の胸におでこをあてながらいつもの質問をする。
「…………やる?」
「………やらない。おやすみ。」
「おやすみ。」
サナエと知り合って2年くらいになるけど、俺たちがそういう関係になったことは一度もない。
なのにサナエは俺が泊まる度に同じ質問を繰り返す。
不思議だなと思いながら、サナエの髪の匂いに包まれて、俺たちは暗い暗い闇のなかにおちていった。
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