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「葬式、行けなくてわるかったな。どうしても外せない出張があってな……。」
女連れでタクシーに乗って行く先が出張かよ。
「私も、今日中にやらなきゃいけない仕事があって……。」
男物の香水と酒の匂いがする仕事ってなんだよ。
「仕事なら………仕方ないよ。」
俺はいつもいい子を演じてきた。
勉強ができないから、せめていい子でいないと、育つ権利さえ剥奪されそうだったからだ。
こんなに悲しいのに涙がでない。
ベランダに出てずっと星を眺める。
どこまでも広がる、雲が立ちこめる暗い空は、いつでも俺を食べる用意ができてるといわんばかりに、恐ろしいほどに自分の大きさを自慢してくる。
人一人も守れないくせに、ただただでかいだけのくせに………。
空に向けて放った右ストレートは悲しく空を裂く。
その雲の向こうには、俺の居場所があるだろうか。
帰る場所を失った俺は、目が見えなくなってしまったかのように、まわりにあるすべての物を、急に不安に感じた。
すがるものがない。
なにもかもが自分を襲ってきそうな感覚に陥る。
サナエ…………!!
気付いたら俺はサナエの家の前に来ていた。
でも今部屋に入れば、俺はきっとサナエを抱いてしまう。
今までの二人の感覚が崩れるのが怖かったから、ドアにもたれかかったまま、静かに目を閉じた。
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