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サンダルを脱いで、素足を浅い川の流れに浸す。
「わ、冷た……っ」
想像していたより、ずっと低い水温にびっくりした。
あたしが遊んでいるのを見ながら、なぁにやってんだかとアキトが苦笑している。
「愛美、子供みたい」
「コドモですよーだ」
あたしは、ぱしゃぱしゃと音をたてて。
くるぶしまで水に浸かりながらターン、木陰でタバコを吸っているアキトに毒づいた。
「あー気持ちいー」
「あんま暴れないの、コケても知らないよぉ」
む。何もないトコロでコケるのが得意なヒトで悪かったですねぇ。
「あー、ミィたんちょっと待ってて。できればここ来て座ってて、知らない間にずぶ濡れになってたらイヤだから。むしろずぶ濡れになるのは俺の腕の中にして」
「うん?」
なんだかブツブツ言って歩き出すアキトの言葉におとなしく従って。
あたしは渋々川遊びを中断。
アキトの居た木陰の、ちょうど椅子のように平たい石の上に腰掛けた。
ミニバッグからタバコを取り出して点火する。
ありゃ、あと3本しかないや…。
後で商店街寄ってもらってまとめ買いしよう。
1本を灰に変えていると、サクサクと軽快な足音をさせてアキトが帰って来た。
「お帰り。どうしたの?」
「んー……」
これ……と。
アキトが、ガクの…遺灰の入っている、白い陶器を手渡した。
「……え? え? どういうコト?」
「ずっと前に、さぁ」
ガクさんが、ガキの頃……毎日川で泳いでたって聞いたような気がしたんだよね。
「ああ……」
あたしも、よくそれは聞いていた。
かはは。
だから、泳ぎだけは得意なんだよな。
白い、小さな匣を。
両手で抱きしめながら、想いを馳せた。
「ひょっとして、ここのコト……かな」
「たぶん。他にも川、あるけど。泳げるくらい綺麗で流れが緩いのって、ここくらいじゃないかな」
そっかぁ。
「もう、生まれた場所の住所探すより、こっちの方が良いかなって思ってきちゃった……いいかな、ここで」
「俺は何も言わない。愛美の、いいようにして?」
「ん……」
あたしは陶器の蓋を開けて。
ひとつまみだけの灰を。
手のひらの上にあけて。
川に、放った。
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