初恋 2

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 はあ、はあ、はあ。    この時間だとギリギリ……!    あたしはゼィゼィ息を切らして、駅からアパートまでの道を全力で走る。    バン!!   「おふぁえりぃー」    ちょうどCMが終わって、アニメのオープニングが流れ始めた。   「……間に、合ったぁー」   「けけけ。ガクセーさんは、大変だねぃ」    ガクがマルボロに点火しながら、はぁー……と脱力したあたしをからかった。    ふんふん、と主題歌を画面と一緒に口ずさみながら、 「不良ホストと違って大変なのよ、あたしは」   「へぇへぇ」    シャワーを浴びてジャケットを羽織って、ガクは出勤の準備だ。   「あれ、早いじゃん……土曜日ってお店忙しいの?」    シュッ。  今日の香水は、カルバン・クラインのエタニティ。あたしがプレゼントしたやつだ。    レディースだけど、メンズのエタニティよりこっちの方が似合うと思ってセレクト。   「失礼な。俺様は何時たりとも忙しいの……これから同伴だよーん」   「あっそ」    テーブルに置きっぱなしのマルボロを拝借。いや、火ぃ点けなくて良いから。あたしは客じゃねぇ。   「ねーガクぅ」   「このアニメ息長いよな。キャラ殖えすぎてお兄ちゃん区別つかねぇよ」   「彼氏できた」    きょとんと首を傾げるホスト。   「あれ? ヤッシーとはもう終わってたっけ?」    誰だよヤッシーって。   「康利とは別に別れてないけど新しくできた。フタマタ」   「ふぃーん……」   「いて」    デコピンされた。  何だよ、もう。痛いなあ。   「うむ。俺を見習って、しっかり悪い女に育ってるよーだな。お兄ちゃんは嬉しいよ。感心感心」   「ガクなんかお手本にしたら刺されそうでイヤだよ」   「かははっ。それもそーか」    行ってくらぁ、とヴィトンのバッグを持って、ガクが今日の靴を選んでいる。    ヴヴヴヴヴ……    携帯電話が震えてる。  発信人は……。   「Newダーリンだ」   「いろんな恋愛すんのは、いーよ」    けどな。    首だけ振り返ってガクが珍しくマジな顔。   「使い別けろよな、この先ツライぜ?」
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