2人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
「お前、まだ分かってないだろう。あの言葉の意味を」
「ハイ」
分からない。まったく分からない。遠い国の言葉のようで、頭のどこをどう使えば分かるのか分からない。
知識不足なのか、はたまた根本的な能力が欠けているのか分からない。もしかしたら、どっちもかけているからかも知れない。
俺の、肝心なところが欠落している。
「教えてやろうか? その意味を」
教えて欲しい。しぬほど教えて欲しい。嗚咽がでそうになるまで考えて、それでも
分からなかったのだ。理由は、分からない。
しかし、何故か頭の中で否定文が生まれていた。
「いえ。自分で分かります」
思ったことを言う。自分で分かるはずだ。絶対、分かってやる。
しかし、監督も頑固だった。
「素直じゃねぇな。わかんねぇくせに」
「分かります」
「わかんねぇな」
「分かります」
「絶対わかんねぇな」
このままだと、ずっと水掛け論だ。仕方がないので、ため息をつく。それを反抗ととったのか、相手が続ける。
「盗塁で刺されたお前が一番悔しいんじゃねぇのか? 今すぐ答えを知りたいんじゃねぇのか? このカチ頭のクソガキ」
どきりとした。完璧な図星だ。
風が舞い、校庭の端に生えた木々を小刻みに揺らす。今日は風が強いようだ。
「カチ頭だけじゃねぇ。脳味噌も腐ってる。代走でしか試合でだされねぇくせに、でかい態度とってんじゃねぇよ」
「な……!?」
ムカツク。むかつきすぎる。しかし、言い返せない。相手が監督だからではない。あいてが大人だからではない。相手が怖いからではない。完璧な図星だからだ。
「お前がいつまでも試合にださせてもらえねぇのはな、そのカチカチ頭と、自己中な心と、代走なんてクソ食らえ精神でやってるからだよ」
風が強くなる。校庭の砂を巻き上げ、小規模な竜巻を作る。
「明日の午後5時、ここの校庭にこい。そこで土下座したら、教えてやる」
「……」
しばらく呆然としていた。きずいたときには、校庭には誰もいなくなり、風もピタリと止んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!