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「……」
午後六時、昨日と同じ場所に、速水は立っていた。まだ、目当ての人は現れない。
最近、日に日に日が落ちるのが遅くなってくる。だから、午後六時でも空は青く、明るい。雲もまばらに散っている。
校舎の時計を見ると、もう7分経っている。遅いな。
雲の動きが早く、いままで近くにあった雲が、もう遠くにある。
「まさか、本当に来るとは思ってなかった」
足音。横を見ると、昨日の監督が、体育館の前に立っていた。薄笑いを浮かべ、期待と、驚きが入り混じった表情になっている。
「で? 用件はなんだ?」
分かっているくせに。そう思ったが、思いとどまった。いままで悪かったのは俺だ。それに、何を言われても、一つの答えが知りたいと思ったのは、俺だ。
「監督、真鯛に言われた事をおし……」
土下座しようとした。しかし、それは一本の手によって止められた。顔を見ると、もういい、というように首をゆっくり振っている。
何故だ? もしや、教えてくれない気だったのか?
そんな思いが頭中を駆け巡る。しかし、その心配はなかった。
「まさか、お前にそんな勇気があるとは思わなかった」
「馬鹿にしないで下さい」
「ふん、まぁ言うな。それじゃぁ教えるぞ」
風が舞う。練習試合での風と、同じ風だった。
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