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キャプテンが、硬い表情で言う。キャプテンだけでないく、皆も硬い表情だろう。
汗がどんどん噴出してくる。日差しは強いが、風は少ない。今のところ最高のグラ
ウンド状態だろう。
「これから、中央中と、七中の試合を始めます。互いに、礼!」
「御願いします!!」
試合はほとんど硬直状態だった。こっちのピッチャーの速球が冴え渡り、相手ピッ
チャーのコントロールがさえていたため、6回まで0-0だった。
しかし、7回表、敵チームの攻撃。4番となった真鯛がフォアボールで出塁。パス
ボール、ワイルドピッチで三塁に進む。
ピッチャーにも疲れがハッキリと見えてきた。
そしてついにツーアウトでバッター7番。カウント1-3での投球。
(しめた! カーブが曲がっていない!!)
高く、澄んだ金属音。完璧に捕らえた打球がレフトに行く。懸命に速水のチームの
レフトが追うがフェンスにダイレクトで当たる。当然、三塁ランナーはホームイン。
「くのやろっ!!」
しかし、レフトは強肩。ワンバウンド送球でセカンドに行き、アウト。
なんとか踏ん張り、この回が終わった。しかし、重たい一点がのしかかってくる。
「いいか、なんとしてでも、この回点を取るんだ」
ベンチに戻ると、円陣を組みながらの監督の激励が待っていた。そう、この回、最
低でも一点とらないと、俺達の夏は終わってしまう。
「次は3番からか。とにかくいいか、全員フルスイングでいけ。いいな?」
「ハイ!!」
『3番、サード、杉田くん』
アナウンスのあとに、いつもより引き締まった顔のクリーンナップがバッターボッ
クスに入る。威圧感たっぷりだ。
カキィン、金属音。初球を叩き、見事一二間を通る。しかも、ライトが痛恨のエ
ラーで、二塁に行く。得点圏となり、次は四番だ。
「よし、たのむぜ。四番」
返事代わりに、四番バッターの眞田がセンターへの長打コースを放つ。しかし、当
たりが良すぎてファースト止まり。
ここで、監督が動く。
「よし、代走だ。秘密兵器、言って来い」
その言葉の後に、ベンチの奥で一人の男が立ち上がる。その瞬間、風がまたふいた
ような気がした。
「逝ってきますわ」
『選手の交代をお知らせします。一塁ランナーに代わりまして、速水君』
ヘルメットを深くかぶり、俺はファーストベースを踏みしめた。
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