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コーチャーの声がかかる。この前の試合と何一つ変わらない。グラウンドも、コー
チャーも、ピッチャーも、キャッチャーも、何一つ変わらない。俺は、帰って来た。
だが、一つだけ変わった事がある。今度は、絶対にセカンドでアウトになったりし
ない。あんな、悔しい思いは二度としない。絶対に成功させてやる。
ふと、走馬灯のように、あの特訓がよみがえってきた。そう、俺はあれだけやって
きたんだ。
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「もう一本だ!」
もう、日が沈み始めていて、紫色の空になっている。ここは校庭。速水と監督での
マンツーマンでの特訓が行われている場所だ。
速水は、昨日の監督の言葉を思い返していた。
「いいか、速水。まず、盗塁は速さだけじゃない意味を教えてやろう」
速水が返事を返す前に、監督は続けた。
「START、SPEED、SLIDINGの三つ、『3S』だ」
「3S……?」
「野球選手の盗塁にとって、一番大切なのは確かにスピードだ。だが、陸上選手でも
たいせつなのがスタートダッシュ、これがお前は遅い。かといって、スタートを意識
しすぎてけん制でアウトになるのも駄目だがな」
確かに、陸上などではスタートだけでタイムが0,1秒ぐらい違うらしい。筋肉の
力の入れ方、瞬発力、体重移動、すべてが合わさって、最高のスタートを切れるとい
うわけだ。
今まで、そんなこと知ろうとも思わなかった。知らなくても良かったからだ。
しかし、今は違う。力だけでねじ伏せられない敵がいる。高く聳え立つ山がある。
俺は大丈夫だ、などといってられない。
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