→-1

6/7
前へ
/28ページ
次へ
「ふん……、さすがに、飲み込みが早いな」 「……ふぅ」  公式試合前日、『3S』をギリギリでマスターした速水は、あえぎながらその話を聞いていた。    現在午後八時。夜のグラウンドで、いつもより険しい表情で監督は話し始めた。 「3Sのマスターしたのなら、三塁までは余裕で盗塁出来るだろう。だが、それだけでは点は取れない」  上を見上げる。見ると珍しく満月が煌びやかに光り輝いている。しかし、同時にどこか不気味な不陰気も持ち合わせていた。    監督の話も、どこか不気味な感じを持ち合わせている。俺に、ホームスチールさせる気か? 「これは、俺の独自の理論だがな……。最後のS、『SPIRIT』だ」 「スピリット……?」 「精神力、いわゆる自信だ。どれだけ技術を持っても、最終的には精神力が者を言う。」  自信。世の中のアスリートたちも、皆心に秘めた熱い自信を持っている。それを、俺に着けろというのだ。    雲で満月が隠れていき、ついに半分消えてしまった。 「それでだ、もしも、万が一、お前が三塁までいけたとして、ある条件を満たしたら、俺がお前にサインを出す」  そういって、監督は手をグーにし、親指だけをしたに向けた。 「それって……」 「そう、『死ね』だ。ホームスチールは死ににいくようなもんだ。だから、死ねとやったら走れ。今までずっと練習してきた3Sと、無敵のSPIRITを使ってな」  無敵の、スピリット……。    満月が完璧に消える。今まで上を向いていた頭を監督に向け、質問を口にした。 「それで、ある条件っていうのは?」 「簡単だ、ツーアウトになってからだ」  ツーアウト? どういう事か全然わからない。首をかしげていると、監督は続けた。 「出来ればな、お前にホームスチールをさせたくないんだ」  ホームスチールをさせたくない……? まだ、よく分からない。させたくないのだったら、何故、いままであんな難しい事を教えた?
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加