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「ふん……、さすがに、飲み込みが早いな」
「……ふぅ」
公式試合前日、『3S』をギリギリでマスターした速水は、あえぎながらその話を聞いていた。
現在午後八時。夜のグラウンドで、いつもより険しい表情で監督は話し始めた。
「3Sのマスターしたのなら、三塁までは余裕で盗塁出来るだろう。だが、それだけでは点は取れない」
上を見上げる。見ると珍しく満月が煌びやかに光り輝いている。しかし、同時にどこか不気味な不陰気も持ち合わせていた。
監督の話も、どこか不気味な感じを持ち合わせている。俺に、ホームスチールさせる気か?
「これは、俺の独自の理論だがな……。最後のS、『SPIRIT』だ」
「スピリット……?」
「精神力、いわゆる自信だ。どれだけ技術を持っても、最終的には精神力が者を言う。」
自信。世の中のアスリートたちも、皆心に秘めた熱い自信を持っている。それを、俺に着けろというのだ。
雲で満月が隠れていき、ついに半分消えてしまった。
「それでだ、もしも、万が一、お前が三塁までいけたとして、ある条件を満たしたら、俺がお前にサインを出す」
そういって、監督は手をグーにし、親指だけをしたに向けた。
「それって……」
「そう、『死ね』だ。ホームスチールは死ににいくようなもんだ。だから、死ねとやったら走れ。今までずっと練習してきた3Sと、無敵のSPIRITを使ってな」
無敵の、スピリット……。
満月が完璧に消える。今まで上を向いていた頭を監督に向け、質問を口にした。
「それで、ある条件っていうのは?」
「簡単だ、ツーアウトになってからだ」
ツーアウト? どういう事か全然わからない。首をかしげていると、監督は続けた。
「出来ればな、お前にホームスチールをさせたくないんだ」
ホームスチールをさせたくない……? まだ、よく分からない。させたくないのだったら、何故、いままであんな難しい事を教えた?
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