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 頭上をまた見上げると、雲が晴れ、星も輝いている。方や地上は、真っ黒で、校舎の職員室の光しか見えない。 「お前が、ホームスチールする前に、できれば他の打者に打ってもらいたい。ホームスチールなんて、ボール持ってる人に飛び込むようなものだからな」  合点。つまり、俺はいざという時の保険というわけだな。    速水は、分かりました、という風に頭を下げ、校門へと向かった。 ―――盗塁は、足の速さだけじゃねぇんだ    ようやくお前の言ってた意味が分かった。能力でもなく、技術でも無いもの。自信だ。無敵のスピリットとやら、今度の試合で試してやる。   出た。『死ね』というサインが。ピッチャーが投げると同時に、全力疾走。    バッターがスイング。サードベース地点で土煙が舞い、それが人影に続く。地面を蹴り、蹴り、蹴り上げ、ホームの突進する。    死ぬ気で点とってやるよ。 「SPIRIT」  塁間で口ずさむ。そうだ、自分を信じるんだ。いままで努力してきた自分、この日のための自分、皆に、『勝ち』をくれてやる。 「アノバカ!」  チームメイトが叫ぶが、関係ない。ベース前に、ブロックの体制をとろうとしている真鯛がいる。それしか見えない。険しい表情を浮かべ、油断など微塵も無い様子だ。真鯛が足を後ろに引く。よし、今だ。    足を後ろに引いたとき、体重が一瞬後ろに行く。その時を速水は狙っていたのだ。    フェイントを掻ける、真鯛のバランスがさらに崩れ、そのスキを着いて大ジャンプ。真鯛を飛び越える。 「クソ……!!」    真鯛が、バランスを崩しながらも速水にタッチ。無理だな。俺には、無敵のスピリットがついてるんだ。    ベースに着いたのと、タッチしたのはほぼ同時。審判の判定によって勝利か、同点かが決まる。    セーフだ。セーフに決まってる。セーフじゃなかったら、俺は何のために走ってるんだよ。一番肝心なところで、アウトになったらおわりじゃんかよ。    いままで、何をやってきた? 真鯛一人に勝つための野球だ。それで負けちまったら、もう、終わりだ。    速水が悲痛な表情で審判を見る。その時、またもや強風が吹いた。    そして、速水がタッチした場所の砂がとれ、下にホームベースが見えてくる。それをみて、審判は一つの行動をとった。  野球の神は、俺達に味方した。
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