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『選手の交代をお知らせします。一塁ランナー、棚吾朗君に代わりまして、速水君。背番号4』  日差しが暑い。そう思いながら熱帯のグラウンドに立つ。ファーストベース一つが白く浮いて見え、ピッチャーの視線を感じる。それを取り除くために、ヘルメットを深くかぶる。    また、代走か。速水康太は、爛々と照りつくグラウンド上で、毎度の事思っていることを、また心の中でつぶやいた。試合に出れるのはいい。しかし、出方が問題だ。    リードコーチャーが声をかける。応援と、歓声と、指摘の声が混ざり合い、なんともいえない騒音になる。    ピッチャーがすばやくプレートをはずす。けん制。コーチャーがバック、と声をかける前にベースにタッチ。土煙が上がるが、視界は良好。結果はもちろんセーフ。    立ち上がりながら、ため息をつく。代走ほどつまらない出方は無い。確かに俺は、守備も上手くないし、バッティングもレギュラーには劣る。だが、代走はつまらない、ダサい、疲れる。  足場が固く、スパイクで削っても衝撃がかなり来る。 「サイン出てるぞ」  コーチャーから声がかかる。返答をせずにチラッと監督をみると、盗塁のサインが出ていた。  視線をピッチャーに戻しながら、速水はそっけなく返した。 「そんなこと、言われなくても分かってる」  大きめのリードを取り、ピッチャーが足を上げた瞬間、走る。    バッターがスイング。ファーストベース地点で土煙が舞い、それが人影に続く。地面を蹴り、蹴り、蹴り上げ、キャッチャーミットに入ったときにはもう塁間を五分の四は越していた。  この分だと、余裕だな。  安堵の表情を浮かべながらスライディングをする。キャッチャーに動きは見られない。そう思った。誰もがそう思っていただろう。  しかし、スナップ音の瞬間、速水はセカンドにタッチされていた。
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