→-7

3/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
「っ……!?」   誰だ? とっさにホームに振り向く。そこには、片腕を高く上げ、ワンアウト!と声をかけている捕手がいた。    その捕手は、チラッとこっちをみて、ニヤリ、と笑った。すぐに視線を次のバッターに戻したが。 「まさかお前がアウトになるなんてな」  ベンチに戻ると、皆落ち込んだ表情をしていた。  凄まじいキャッチャーだ。眉間にしわを寄せる。ノーモーションで投げれて、しかもコンマ秒での送球。速水は、冷や汗をかいた。 「中3で5秒台後半だっけ?」 「……」    皮肉か、ムカツク。そんなことより、あのキャッチャーの名前を……。   「監督、相手チームのメンバー表かしてください」  監督は何もいわずにスコアラーを指差した。たった今バッターが三振し、ツーアウトになったのだ。    『ツーアウト!』と掛け声が広がる。現在2-1の一点ビハインドで、7回裏。つまり、中学野球では最終回なのだ。    俺があの時盗塁を成功させていれば……。と、いう無念の思い。それをかくすため、帽子を深くかぶる。目頭が熱くなり、視線を下にやる。しかし、思いは収まらない。 「メンバー表貸して」  スコアラーに声をかける。はい、とメンバー表を貰うと同時に、詰まったような金属音。グラウンドを見ると、外野と内野の間にボールが落ちているのが見えた。ポテンヒットだ。    盗塁を成功させていれば、という無念の思いがまたもや湧き上がる。あの打球なら、ホームに帰ってこれた……。    パラパラ、と風で紙が波打つ。それに気付き、キャッチャーを探した。    3番 キャッチャー 真鯛 鬼鮫。    メンバー表には、こうかいてあった。真鯛、鬼鮫か。  もう一度真鯛を見る。しかし、何食わぬ顔でピッチャーのボールを受けていた。   「バッターアウト! ゲームセット!」  またもや三振。練習試合だから、成績にはあまり関係ないものの、完璧に負けてしまった。    とくに速水は、真鯛というキャッチャー一人に負けた。屈辱、失念、後悔。色々な気持ちが湧き上がる。そう、速水は、盗塁を失敗した事が一度も無いのだ。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!