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「っ……!?」
誰だ? とっさにホームに振り向く。そこには、片腕を高く上げ、ワンアウト!と声をかけている捕手がいた。
その捕手は、チラッとこっちをみて、ニヤリ、と笑った。すぐに視線を次のバッターに戻したが。
「まさかお前がアウトになるなんてな」
ベンチに戻ると、皆落ち込んだ表情をしていた。
凄まじいキャッチャーだ。眉間にしわを寄せる。ノーモーションで投げれて、しかもコンマ秒での送球。速水は、冷や汗をかいた。
「中3で5秒台後半だっけ?」
「……」
皮肉か、ムカツク。そんなことより、あのキャッチャーの名前を……。
「監督、相手チームのメンバー表かしてください」
監督は何もいわずにスコアラーを指差した。たった今バッターが三振し、ツーアウトになったのだ。
『ツーアウト!』と掛け声が広がる。現在2-1の一点ビハインドで、7回裏。つまり、中学野球では最終回なのだ。
俺があの時盗塁を成功させていれば……。と、いう無念の思い。それをかくすため、帽子を深くかぶる。目頭が熱くなり、視線を下にやる。しかし、思いは収まらない。
「メンバー表貸して」
スコアラーに声をかける。はい、とメンバー表を貰うと同時に、詰まったような金属音。グラウンドを見ると、外野と内野の間にボールが落ちているのが見えた。ポテンヒットだ。
盗塁を成功させていれば、という無念の思いがまたもや湧き上がる。あの打球なら、ホームに帰ってこれた……。
パラパラ、と風で紙が波打つ。それに気付き、キャッチャーを探した。
3番 キャッチャー 真鯛 鬼鮫。
メンバー表には、こうかいてあった。真鯛、鬼鮫か。
もう一度真鯛を見る。しかし、何食わぬ顔でピッチャーのボールを受けていた。
「バッターアウト! ゲームセット!」
またもや三振。練習試合だから、成績にはあまり関係ないものの、完璧に負けてしまった。
とくに速水は、真鯛というキャッチャー一人に負けた。屈辱、失念、後悔。色々な気持ちが湧き上がる。そう、速水は、盗塁を失敗した事が一度も無いのだ。
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