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―――盗塁は、足の速さじゃねぇんだ
何? 何故? 盗塁は、足の速さが基本のはず。なのに、足の速さだけでは、無い? 疑問だらけの頭。全然分からない。全く分からない。
「遅いぞ、速水」
生返事。もはや真鯛の言葉しか頭に入っていなかった。真鯛の顔が頭でちらつき、ほかの事を考えられない。
「なあ、速水、グラウンドに残ってなにやってたの?」
「うん……」
「うんじゃなくて、何やってたのって聞いてるの」
「うん……」
「……」
駄目だこりゃ。と隣のチームメイトがあたまを抱える。他の人もにやけ笑いをしている。
「こりゃ、相当ショッキングなことがあったらしいな」
「うん……」
「アナタの髪の毛はカツラですか?」
「うん……」
もしきずいていたら、速水は切れていたと思う。しかし、今の状態の速水にはまったく聞こえない。脳内は真鯛のことでいっぱいなのだ。
それをいい事に、皆ニヤニヤしながら質問を浴びせていた。
グラウンドに着き、皆はもう解散していたが、速水は一人残り、走り込みをしていた。
(俺になにが足りないって言うんだ?)
―――盗塁は、足の速さじゃねぇんだ
真鯛の言葉。まだ、頭の中に媚について離れない。
はたから聞けば、何気ない一言。しかし、速水にとっては充分重過ぎる一言だった。
「―――畜生!」
地団太を踏む。全然、全く分からない。意味不明の、解読不明の言葉のようだ。
ムカツク、やっぱり、あの時真鯛を殴っとけばよかったんだ。そうすれば、こんな気持ちもなくなって、今頃ゲームでもやってるだろう。
アイツのせいだ、全部アイツのせいだ。アイツが、俺を盗塁で指さなければ……。
嗚呼、という声が漏れる。あいつさえ、いなければ……。
自己中。速水には、その言葉がぴったり当てはまった。自分が悪いのに、なんでも人のせいにしたがる。
そのとき、後ろにひとの気配を感じた。なので、後ろをみると……。
「お困りのようだな、スバガキ君」
「スバガキ……?」
夕日をバックにして、うちのチームの監督が立っていた。
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