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無言になったところで携帯電話のバイブが鳴り響く。メールは私の携帯に来ている、佑介からだ。私は花梨の様子を伺う。
花梨は遠くを見ているようで、メールには気付いてないみたいだった。
すぐに佑介からのメールを見る。
――今屋上のドアの前。横内をドア側にしてドアに近寄ってくれ。そしたらバットで殴る。
これでやっと一人消える……ざまーみろ森下。お前の思い通りにさせてたまるか。
「……もう話すことは何もないよね」
花梨はそういいながらドアの方を向く。好都合!
「ない」
一言言い放つと花梨はドアに向う。私もその後を続く。佑介がいるとも知らずに自分から死に急ぐなんて。
花梨がドアのに手を伸ばす、ひねる。開けられたドア、それと同時に花梨のびっくりした表情。
当たり前だ。ドアを開けたらいきなり佑介と目が合ったのだもの。それを見て笑っている私に花梨は気付かない。どこまでも鈍感。
そして、花梨を気絶させるために用意した金属バットで佑介が花梨の頭を殴る。
――すぐに鈍い音がした。そこで見た光景は……倒れた佑介と、佑介を見据える花梨。何で、何でよ?
「なん、で、どうなってるの……」
「見ての通りだよ」
花梨が不思議そうに答える。
「何で花梨を殴ったはずの佑介が倒れてるのよ!!」
花梨はくすくすと声をもらす。この場に合わない笑いと返答なしの無言に私は腹を立てる。
「何とか言いなさいよ」
「お腹を殴ったの」
いきなり、なんだっていうの。女子の力で男子が倒れるわけない。
「中学の時に、空手を習っていたしさ。かったるくて止めたの」
花梨がにこやかに言う。……誤算だった。
「汗臭いのなんて、女の子じゃないと思うんだ、はは」
花梨は微笑みながら私に近づいてくる。
「来るな」
「どうして」
微笑みが、にたりとした笑いに変わりながら花梨は歩き続ける。私はどうなるんだ、首を絞められる?それとも首を折られる、突き落とされる?もしかしたら、お得意の空手で腕や足を一本ずつ折られてそのままぼこぼこにされるのかも。
どれにしたってろくな死に方はできないだろうな。佑介はきっと気絶しているだけだろうけど、私が死んだ後に彼も殺されるのだろう。
「後ろ、危ないよ」
気が付くと屋上のフェンスに背中をつけていた。私の体に花梨の手が伸び、触れる。
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