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「千春ちゃん、生きていて良かった」
花梨が私に抱きつく。殴るわけでも首を絞めるわけでもないようだ。
「……は!?」
状況が掴めない。
「やっぱり吉田佑介は裏切り者だったんだ」
花梨が自分自身で納得する。
「裏切り者って何よ」
「……吉田佑介は私とも同盟を組んでいたんだよ。千春ちゃんと同じようにね」
それって、私らを二股してたってことか。
「どちらとも同盟を組んでおけばどちらが死んでも一応利益は得られるもんね。吉田佑介は私を殺した後千春ちゃんを殺すつもりだったんじゃないかな」
「嘘……」
まさか、佑介がそこまで考えていたとは。
「鈍感だなあ」
花梨がくすくすと笑う。この笑みに恐怖は感じられない。
「私が最初からこの計画に気付いてたから二人とも助かったけど」
「私を殺さないのか」
言うと花梨はにっこりと笑う。
「私は絶対に千春ちゃんを殺したりなんかしない。覚えてる?小学生の時、私が誰も友達がいなくて独りだったとき、一番最初に声をかけてくれたのが千春ちゃんだった。だから、これからも私は裏切らない。私を生かしたのは千春ちゃんだから」
「花梨」
私はあんなにひどいことをしたのに、花梨は私を友達がだと言ってくれる。辛いけど、嬉しかった。
「授業始まっちゃう」
花梨が促す。
「佑介は?」
「あ、忘れてた」
おっちょこちょい。さっきまでの花梨はどこに行った。
「じゃーん、睡眠薬をたくさん持ってきてみました。これを投与すればオッケー」
自殺に見せ掛けるのか?
「……これが終わったら二人で頑張ろうね」
私に背中を向けて花梨が呟く。声が震えている。大丈夫、頑張ろう。気絶した佑介に薬を飲ませる花梨を私は黙ってみていた。しばらくの間沈黙が流れる。
「あの、さ。さっきはごめん」
「さっきはさっき、今は今!」
そんなの、むしが良すぎる。
「ごめん」
「償ってくれる?」
「うん」
考え込むと花梨は大きな声で言った。
「Aランチとジュース。今度おごってよ」
緊張が一気に抜けてしまった。
「バ花梨」
馬鹿と花梨をかけてみる。自然と笑みがでてしまった。
「ひどいなぁ」
笑うと止まらなくなってしまう。不謹慎なので全力で止めるけど。
「そういえば」
花梨が振り返らないまま話しかける。また声が震えている。
「何」
「千春ちゃんってさ、ホント鈍感だよね?」
どすんと、響いた。
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