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「悪気なかったら何してもいいと思ってんの?」
そうね、雨宮も良い事を言う。悪気がなかったら人の人生もてあそんでいいのかしら。いや、悪気もあったのよね。知っていて私をいじめたのよね。
「許さない」
私の言葉に千春が反応する。
「森下?」
「許さない、許さない、許さない!!」
「森下!」
千春が私を小さく呼んだ。そうだ、ここで殺意を見せたらあたしの姿が見えてしまう。落ち着こう、冷静にならないと、冷静に。
「原田ぁ?」
時定が千春に話し掛ける。
「なに」
「お前さ、今そっちにいなかったっけ」
時定があたしのいる場所を指差す。危ない、見えていたか。
「んなはずないでしょ」
「そっかぁ」
時定は女子二人の所に上履きを取りに行く。手を伸ばして、上履きに触れようとしたとき。
「雨宮、パス」
「はいよ」
雨宮が男子に上履きを放り投げた。名前が分からない。
「返せよ、葉桐!」
上履きを持っているのは恋、らしい。そうか、葉桐恋か。
「少し落ち着け」
「葉桐は少し騒がしくなれよなぁ」
「柳沢」
葉桐は窓側にいる柳沢に上履きを投げる。柳沢は片手で上履きを捕まえた。
「それ、そこから落として」
「了解」
「だめだ、それは俺の上履きだ!」
「知るかよ」
柳沢は上履きを持った手を窓の外に出した。
「はい、落とした」
「あとでどうなっても知らないからな」
時定は急いで廊下に飛び出した。馬鹿。
「本当に上履きを落としたの?」
古宮が窓際に近づく。光に当たって黒い髪が少しだけ茶色に変わっている。
「まさか、投げたふり」
柳沢の手には落とした、様に見えた時定の上履きがあった。
「本当に落としたらいじめじゃん」
「落とさないほうがたち悪いって」
矢崎が柳沢の前の空いた席に座る。その席は、もうここに来ることのない横内花梨のものだ。
「お前いつか生徒指導室で説教くらうんじゃねーの」
気持ち悪い、葉桐が笑いながら柳沢に近づく。気持ちが悪いものがまとまって一ヶ所に集まるからなんとも言い難い気持ち悪さが私を支配する。この光景を見ているだけで吐き気を覚える。
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