母のいない日々は

5/11
前へ
/76ページ
次へ
母さんはいつも海には入らなかった。 妹と砂浜で、 お城とかトンネルとか作っていた。 僕は父さんとひたすら海で潜っていた。 そして、お昼時になると 海の家に行って、 塩辛いソース焼きそばを食べた。 妹といつもカキ氷の取り合い。 そんな僕らを母さんは、 ゲンコツで黙らせる。 夕方になり、帰る準備を始める。 僕と父さんは日焼けで体中真っ赤。 ジンジン痛むのを我慢する。 すると、母さんと妹が決まって、あることをする。 妹のいたずら好きは、母さんに似たのだろう。 ふたりは僕と父さんの背後に近づき、 思いっきり、背中を叩く。 鋭いんだか、鈍いんだか分からない痛みが、 全身をはしりぬける。 「いてーーーー!!!!」 悲痛の叫びが、既に人もいなくなった海水浴場に響く。 日焼けで真っ赤になった背中が、 さらに真っ赤になる。 夕焼けと同化しそうなほど・・・。 女ふたりの叩き攻撃から逃げるために、 僕と父さんは逃げまどう。 母さんと妹は、その姿を見て 大笑いし、追い掛け回す。 母さんの笑顔は、 どんな子どもよりも無邪気だった。 4つの影が、 夕焼け色の世界に 吸い込まれていった。 そんな去年の記憶が、 何故か鮮明に思い出された。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加