闇の種

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1998年【夏】          『行って来ます!』    恭二は母親にそう告げると、学生服を身に纏い、家を後にした。    しかし、何時も学校に行く方向とは全く別の方向へと向かい始めた。暫く歩くと駅が見える。    恭二が向かった先とは、学校では無く駅であったのだ。    恭二は駅に到着すると、コインロッカ~で学生服を脱ぎ去り、薄汚い作業服に着替える。その後、駅の公衆電話から学校に電話し、体調不良を理由に学校を欠席。    その後、手荷物を持ったまま、タクシ~乗り場の前に立ち尽くした。          ----昨日----    「兄ちゃん!ウチはマジにキツイけど大丈夫か?働く所なら沢山あるんだからウチじゃなくても良いんじゃないのか?」    『大丈夫です。未経験ですけど頑張りますので何とか宜しくお願いします』    「今16才って高校に進学しなかったのは何故だ?」    『………』    「何か言えない理由でもあるんだな?解った解った。但し、給料は1日6000円やけんな?未経験なんだから辛抱してもらわな」    『それだけ頂けたら十分です。宜しくお願いします』          恭二は昨日、建設会社の面接を受けていた。しかし妙な点に気付く。この時、恭二の本当の年齢は15才。    そして、15歳だと仕事に従事出来ないと知った恭二は、母親の扶養に入ってる健康保険証の上に偽の文字を貼付け、そのままコピ~する。    年齢の部分を偽装し、16歳という事にした後、そのコピ~用紙の保険証を持参し、日中、母親が使用するという理由で偽保険証のコピ~で面接を受けたのだ。    闇金融の追い込みに耐えれ無くなり、夜逃げをした日から3ヶ月。恭二は色々な事を考え抜いた結果、若干15歳の若さで就職する事を決意していたのだ。    それは、母親の借金を支払う為……    3ヶ月前の春、恭二の中にある闇の種が芽を出し始めていた。          (生き抜いてやる)    (母さんと妹と一緒に生き抜いてやる)          生き抜くという言葉を自分の心に連呼し、鏡を睨み付けながら深く念じる。まるで自分を洗脳するかの様に……    そして恭二は、ほんの少しだけ、たくましくなったのだ。          その時の事を回想する恭二が、タクシ~乗り場で待機していると、そこに1台の車が現れた。   
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