闇の種

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1998年【秋】          恭二が建設会社の仕事を始めて4ヶ月。真面目に働く姿を誰もが関心した。          「お~い!恭ちゃん。昼飯にしようぜ~!」    『はい。御手洗さん』    「しかし……恭ちゃんは本当にお袋さん思いだね?」    『そんな事は無いですよ』    「そんなに謙遜しなさんなって」    『………』          (俺だって好きで働いてる訳じゃないんだ!)    (皆と同じ様に学校に行きたかった……だけど、仕方無いんだ!)          恭二の思考は相変わらず歪んだ方向へと進む。やはり、憎悪と学校生活に対する未練が原因であろう。    恭二の母親である美樹は、恭二が働く事へ強く反対するが、金銭面で全然余裕が無い事が理由で、恭二に頼るしか無い現状であった。    夜逃げの最大の理由は金銭面の問題。しかし、恭二が労働する事によって、収入が増幅した為に闇金融の支払いを再開。    逃亡生活に終止符が打たれたのだ。    美樹は過去に自己破産している。だから闇金融に借金をしていたのだ。そして、何時までも逃亡生活をする訳にもいかない。だから恭二に頼るしか無かった。    恭二が給料全額を闇金融に返済する事で、悪質な取り立ては一切無くなったが、高金利の為に闇金融への借金が簡単に減るのは難しい。    故に、恭二は毎日ロボットの様に働いたのだ。    面白く無い毎日を過ごす恭二の心が歪んで行くのも無理は無い。    美樹はそんな恭二を見て、罪悪感を覚える。    だが恭二もそれを察知。美紀も辛いだろうと気を使い、美樹を責める様な真似は一切しない。    胸の中の憎悪と怒りを表に出さず、全てに耐える毎日を過ごす。    そんな毎日が続くある日……          「おぉ~い。恭ちゃん……大変だっ!今、社長から電話があって恭ちゃんのお袋さんが倒れたって!」    御手洗の突然の発言に動揺する恭二。その表情は焦りと動揺で言葉にならない程だ。          『それは……本当ですか?』    「ああ……今、病院に運ばれたみたいだから直ぐに行ってあげな!タクシ~代をあげるから!」    『すいません。御手洗さん!』    恭二は申し訳なさそうな表情で御手洗からタクシ~代を貰うと、美紀が運ばれた病院へ急いで向かう。御手洗とて恭二が金を所持して無い事ぐらいは理解出来たのだろう。    優しい人だ……   
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