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「は、初めまして。
僕はここに新しく来た医者でイワタ コウジっていいます。
院長から聞いているかもしれませんが、今日はあなたに事件について詳しく聞きたいと思いまして..」
そこまで一気に言い終えてから相手の様子をうかがった。
相変わらず男は僕をジッと見つめている。
反応がない。
僕はどうすればいいか分からず、ポリポリと頭を掻いた。
この男..
話し通じてるのだろうか..
思わずそんな不安を抱いてしまう。
そんな時だった、ゆっくりとだが男の口角が上がり出したのだ。
僕は何事かと、視線はそこに集中する。
歯並びの悪い黄ばんだ歯が徐々に姿をあらわす、それと同時に突如そこから寄生にも似た声が漏れ出したのだ。
「グヒッグヒッグヘヘヘッ」
僕は驚きで目を丸くした。
こいつ狂ってる..
全身がこの得体の知れない男にピリピリと警戒信号を発しているのが分かる。
仕事をこなさなきゃという意思とは裏腹に、震える足は一刻も早くこの場所から逃げ出したいという抑えきれない本心を表していた。
僕がそんな気持ちと葛藤している時だった。
不意に男がジャラジャラとベットの上の噛みちぎられたおしゃぶりを落とし出したのだ。
そして、しばらくそうしていたかと思うとゆっくりと顔を上げ
「こ、ここ、す、座れよ」
と僕に向かって言ってきた。
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