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「ノダさーんっノダさーんっ!!!」
部屋から出るとすぐにそんなしゃがれ声が耳に入った。
玄関の扉からわずかに顔出しながら叫ぶ小太りのおばちゃん見える。
このアパートの大家だ。
カズオは大きめの体をのそのそと動かしながら叫ぶ大家のもとへと向かった。
「あっ!
ちょっとカズオさんっ!
いつまで待たせるの!」
大家はカズオの姿をとらえると、大して待ってもいないのにあからさまに不満そうな顔をしながらズカズカと玄関に入ってきた。
「す、すみません..」
カズオは俯きながら聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟く。
大家はそんなカズオの態度が気に入らないのか、手に持っていた紙を手荒くカズオに差し出した。
そこには、でっぷりと脂肪のついた体を丸めあくびをする黒ぶちの猫の写真と細かいプロフィールが掲載されていた。
「この子ジルちゃんっていうんだけど、昨日の夕方から姿が見えないのよ。
いつもはどんなに遅くても次の日の明け方には帰ってくるのに。」
大家はそこまで言ってジロリとカズオを見た。
「それで今皆さんに聞いて周ってたんだけど、カツラさんとこの娘さんが昨日の夜に、カズオさんとうちのジルちゃんそっくりな猫が一緒にいるのを見たって言ってるんだけど何か知らないかしら?」
語調には明らかに疑いの色が含まれている。
カズオは紙を握り締めたままさらに俯いた。
「し、知らないです。」
ボソボソと答える。
「ほんとに?
ほんとに知らないの??」
大家はカズオを犯人だと決め付けているのかなかなか食い下がらない。
「ほんとはここにジルちゃんいるんじゃないの?
ねえっ、お部屋見さしてくれないかしら?
見たらすぐ帰るわよっ、ねえっ、いいでしょ??!」
段々と荒くなる語気ととともに、大家はジリジリとカズオににじり寄った。
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