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カズオは大家の勢いに押され、一歩、また一歩と後ずさった。
「聞いてるの?!
答えないってことは見てもいいってことよね!??
入るわよ?!?!
いいわね??!!」
大家が片方の靴を脱いで今まさに入ろうとした時だった。
「ちょっとやめて下さい大家さんっ!!」
ジリジリと詰め寄る大家の肩をカズオの母親が掴んだ。
「カズちゃん知らないって言ってるじゃないですか!
うちの子は嘘をつくような子じゃありません!!」
意思の強い目で大家を睨み付ける母親。
大家はそれを驚いたように見つめる。
「もしまだうちのカズちゃんを疑ってるのでしたら、私が責任持ってお調べしておくので今日のところはお帰り下さい。」
有無を言わさぬ態度。
大家は何を言っても無駄だと思ったのか、渋々脱ぎかけた靴をはいた。
「じゃ、じゃあ何かお気付きのことがあったらすぐに知らせて下さいね。」
まだ疑いの晴れないまなざしでカズオをジロリと見ると、大家はドアも閉めずにそそくさとその場から去っていった。
母親はそんな大家の背中を最後まで見つめると、ハアーッと溜め息をついた。
「カズちゃん、気にしなくていいのよ。
大家さんあの猫かなりお気に入りだったみたいだったから過剰になってるんだわ」
優しくカズオの背中を撫でる。
だが、カズオはその手を避けるようにして大きな体をのけ反らすと、ドアを閉めるために無言で数歩前へ出た。
母親は悲しそうな顔でそんなカズオの背中を見つめた。
そしてゆっくり俯くと、そのまま台所へと戻っていった。
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