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ガチャリ..
カズオが玄関のドアに手をかけ、引こうとした時だった。
「カズオ君家にも大家さん来たんだあ。
大変だっでしょう。」
不意にドアの外から誰かが声をかけてきた。
カズオはゆっくりと顔を上げる。
と、そこには大きなゴミ袋を両手いっぱいに下げた小綺麗な女性が立っていた。
「サ、サユリちゃん..」
カズオは驚いたような顔をしてその女性を見つめた。
タカノ サユリ。
31歳。
カズオの小学校の時の元同級生である。
3年前にカズオ達が住んでいる部屋の隣りに引っ越してきた。
現在独身。
「おはよう♪」
サユリは年齢を感じさせない眩しい笑顔でそう言うと
「あっそろそろゴミ収集車来ちゃうから行くね!」
と言って慌てて階段をかけ降りていった。
カズオはサユリの後ろ姿が見えなくなるまで彼女を見つめた。
そしてゆっくりとドアを閉める。
ガチャン..
ドタドタ ドタドタ
そんな荒々しい音をたてながら慌てて自室に戻る。
カチャリ..
鍵をかけたことを確認すると、カズオは扉を背にそのまま崩れ落ちた。
フーフーフー..
荒くなる鼻息。
不気味に歪む口元。
興奮する体。
ドクンドクンと波打つ熱い血を体全身に感じながら、カズオはしばらくその場にうずくまった。
サユリちゃん..
サユリちゃん..
目を閉じればさっき見たばかりの輝かしい笑顔がよみがえってくる。
カズオは抑え切れなくなったものを思わず放出した。
少しずつ頭が冷静さを取り戻す。
「あ..」
ふとカズオは何かを思い出したようにゆっくりと立ち上がった。
そしてのそりと押し入れに近付く。
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