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「医者の話では夏まで保つかどうかと……」
「そんな……」
鶯が絶句する。
「あの子は母を知らずに育った不憫な子だ。そして自分の命すら……」
涙ぐむ中納言。
「頼む鶯。あれに母の温もりを与えてやってはくれぬか」
「はい。私に出来ることは何でもしましょう」
「感謝する」
中納言はそう言って頭を下げた。
「頭を上げてください。愛するあなたの為、可哀想な姫の為です。どうかお気になさらずに」
鶯は中納言の横へ並び、肩をソッと抱いた。
橙姫と朱鷺は、後ろでそんなやり取りがあったことは露知らず、二人仲良く道を歩いていく。
「ほら、見えてきたよ」
朱鷺が前方を指差す。
遙か前方に、紫紅に色付く絨毯が見え始めた。
近付くにつれそれは広さを増し、辺り一面の蓮華草の絨毯へと変わっていく。
「わあー」
橙姫が感嘆の声を上げた。
紫紅色の絨毯の真ん中には桜の大木が立っており、優しい風に柔らかな桃色の花弁が、ゆっくりのんびりと吹かれている。
絨毯の一番奥は切り立った崖になっており、遙か下方を川が流れ、水音が微かに聞こえて、涼やかな音色となっていた。
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