第一章

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  「すごーい」  橙姫は目を輝かせ、蓮華草の絨毯へと足を踏み入れる。 「おお、なんと見事な」  中納言と供の者が感嘆の声を上げる。 「あの桜の下に行きたい!」  後ろから付いて来た朱鷺を振り返るなり、期待の眼差しを向けた。 「うんっ、行こうか」  朱鷺は優しい笑みを浮かべながら、橙姫の手を引き大木へと向かう。  中納言とお供の者達は、ゴザを敷き談笑を始めた。  桜の大木の下へと着いた二人は、空高く続く桃色の層を見上げる。 「凄い綺麗……」  橙姫が涙ぐみながら小さく呟く。 「うん。……大丈夫?」  橙姫の涙に気付いた朱鷺が心配そうに気遣う。 「あれ?どうしたんだろう……勝手に……」  次から次へと溢れ出てくる涙を必死に拭う橙姫。  温かく柔らかな力をくれる桜の大木を見て、必死に抑え込んでいた死への恐怖が弛まり、気が抜けたのかもしれない。  その証拠に橙姫は涙を流しながらも、これまで以上の朗らかな笑顔を見せていた。 「だいだい、お前器用だな」  その笑顔に心奪われた朱鷺が照れ隠しにからかう。 「えへへへ」  そうして二人は笑い合った。 「こほっ…」  橙姫の咳。
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