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「すごーい」
橙姫は目を輝かせ、蓮華草の絨毯へと足を踏み入れる。
「おお、なんと見事な」
中納言と供の者が感嘆の声を上げる。
「あの桜の下に行きたい!」
後ろから付いて来た朱鷺を振り返るなり、期待の眼差しを向けた。
「うんっ、行こうか」
朱鷺は優しい笑みを浮かべながら、橙姫の手を引き大木へと向かう。
中納言とお供の者達は、ゴザを敷き談笑を始めた。
桜の大木の下へと着いた二人は、空高く続く桃色の層を見上げる。
「凄い綺麗……」
橙姫が涙ぐみながら小さく呟く。
「うん。……大丈夫?」
橙姫の涙に気付いた朱鷺が心配そうに気遣う。
「あれ?どうしたんだろう……勝手に……」
次から次へと溢れ出てくる涙を必死に拭う橙姫。
温かく柔らかな力をくれる桜の大木を見て、必死に抑え込んでいた死への恐怖が弛まり、気が抜けたのかもしれない。
その証拠に橙姫は涙を流しながらも、これまで以上の朗らかな笑顔を見せていた。
「だいだい、お前器用だな」
その笑顔に心奪われた朱鷺が照れ隠しにからかう。
「えへへへ」
そうして二人は笑い合った。
「こほっ…」
橙姫の咳。
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