第一章

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  「こほっ、こほっ」  橙姫は咳を繰り返しながらしゃがみ込んだ。 「大丈夫か?」  朱鷺は橙姫の横へ同じ様にしゃがみ、背中をさすってあげる。 「うん」  顔を上げ気丈にも笑顔を作る橙姫だったが、その顔は蒼白だった。 「本当に?」 「うん」  朱鷺の顔を見つめながら頷く橙姫。  そして何かに気付き、真っ白な小さな指を朱鷺の顔へと伸ばす。 「朱鷺の……」  その先は続かなかった。 「ごほっ、ごほっ」  喉に何かが絡むいやな咳。  橙姫は伸ばしかけた手を口に当て、苦しそうに眉を寄せる。  何度目かの咳のあと、口に当てた手の真っ白な指の間から、赤い……真紅の血が垂れてきた。 「だ、だいだい!」  朱鷺が橙姫の腕を掴む。  それと同時に、目を閉じゆっくりと後ろへ倒れ込んでゆく橙姫の身体。  口の周りは真紅の血で真っ赤に染まり、顔は完全に血の気が失せ、死人のそれだった。 「だいだい!しっかり!」  橙姫の身体を抱きかかえ、必死に呼び掛ける朱鷺。  静かに橙姫の目が開き、微笑む。 「朱鷺の……」 「え?」 「朱鷺の目は……朱いんだね。とっても……きれ……いだ……ね」
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