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「こほっ、こほっ」
橙姫は咳を繰り返しながらしゃがみ込んだ。
「大丈夫か?」
朱鷺は橙姫の横へ同じ様にしゃがみ、背中をさすってあげる。
「うん」
顔を上げ気丈にも笑顔を作る橙姫だったが、その顔は蒼白だった。
「本当に?」
「うん」
朱鷺の顔を見つめながら頷く橙姫。
そして何かに気付き、真っ白な小さな指を朱鷺の顔へと伸ばす。
「朱鷺の……」
その先は続かなかった。
「ごほっ、ごほっ」
喉に何かが絡むいやな咳。
橙姫は伸ばしかけた手を口に当て、苦しそうに眉を寄せる。
何度目かの咳のあと、口に当てた手の真っ白な指の間から、赤い……真紅の血が垂れてきた。
「だ、だいだい!」
朱鷺が橙姫の腕を掴む。
それと同時に、目を閉じゆっくりと後ろへ倒れ込んでゆく橙姫の身体。
口の周りは真紅の血で真っ赤に染まり、顔は完全に血の気が失せ、死人のそれだった。
「だいだい!しっかり!」
橙姫の身体を抱きかかえ、必死に呼び掛ける朱鷺。
静かに橙姫の目が開き、微笑む。
「朱鷺の……」
「え?」
「朱鷺の目は……朱いんだね。とっても……きれ……いだ……ね」
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