第一章

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   朱鷺の瞳は完全な黒では無かった。  薄い朱がかかり、黒を引き立たせている。  その瞳は今、橙姫の真っ白になった顔を映していた。 「だいだい!しっかりして!だいだい!」  必死に呼び掛ける朱鷺。  橙姫の顔がくしゃっと歪む。 「朱鷺……怖い…よ……」  大人達の前では、心配させまいと隠していた死への恐怖。  確実に死が近付いてくる恐怖。  幼い橙姫に隠しきれる筈はなかった。 「大丈夫!大丈夫だから……」  朱鷺は言葉を続けることが出来ない。 「お花……綺麗だった……よ。ありが…と…う」  橙姫の目から、一筋の涙が零れる。  そして、目が閉じられた。 「だいだ…い……?」 「だいだい!?」 「しっかりしろよ!」  返事は無い。 「……死なせない。死なせるもんかっ!」  朱鷺はある決心をした。  目を閉じ、口を真一文字に食いしばる。  そしてゆっくりと目を開けた。  瞼の下から現れる瞳。  その色は……朱。  何物よりも朱く、どこまでも深い……朱。  その朱い瞳が現れると、髪は逆立ち、目がつり上がり、口には牙が現れる。  その姿はまさしく鬼だった。
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