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朱鷺の瞳は完全な黒では無かった。
薄い朱がかかり、黒を引き立たせている。
その瞳は今、橙姫の真っ白になった顔を映していた。
「だいだい!しっかりして!だいだい!」
必死に呼び掛ける朱鷺。
橙姫の顔がくしゃっと歪む。
「朱鷺……怖い…よ……」
大人達の前では、心配させまいと隠していた死への恐怖。
確実に死が近付いてくる恐怖。
幼い橙姫に隠しきれる筈はなかった。
「大丈夫!大丈夫だから……」
朱鷺は言葉を続けることが出来ない。
「お花……綺麗だった……よ。ありが…と…う」
橙姫の目から、一筋の涙が零れる。
そして、目が閉じられた。
「だいだ…い……?」
「だいだい!?」
「しっかりしろよ!」
返事は無い。
「……死なせない。死なせるもんかっ!」
朱鷺はある決心をした。
目を閉じ、口を真一文字に食いしばる。
そしてゆっくりと目を開けた。
瞼の下から現れる瞳。
その色は……朱。
何物よりも朱く、どこまでも深い……朱。
その朱い瞳が現れると、髪は逆立ち、目がつり上がり、口には牙が現れる。
その姿はまさしく鬼だった。
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