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静かに眠る橙姫の頬に赤みが差してくる。
朱鷺はソッと橙姫の頬を手で触れた。
鋭く伸びた爪で、柔らかな肌を、傷付けないようにソッと。
温かな温もりが、指を通して朱鷺に伝わる。
朱鷺は胸を撫で下ろした。
途端に視界が歪む。
桜の大木が奇妙にねじ曲がり、上と下の区別が付かなくなる。
「だ……いだ……い」
真っ白に染まっていく視界の端に、蒼い顔をした鶯が駆け寄ってくる姿が見えた。
「朱鷺!」
鶯が朱鷺の名を呼び、後ろへ倒れ込む体を支えたとき、既に朱鷺の意識は無かった。
体は幼い年齢相応のそれに戻っていた。
髪の色はそのままの燃えるような朱。
もし、朱鷺が今目を開いたのなら、その瞳も朱だと鶯は気付いただろう。
瞳も朱だというのに気付くのはまた少し経ってから。
しかし、何があったのかは鶯はすぐに分かった。
朱鷺の髪の色。
何より橙姫の手に握られた『角』。
朱鷺、鶯達一族の……鬼の一族の証であると共に力の源。
それは持つだけで、どんな不治の病だろうと、怪我だろうと癒すことができる。
しかしそれを他人に渡すことは、力の制御を狂わすことになるのだ。
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