第一章

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 橙姫が目を覚ますと、最近やっと見慣れてきた、天井が見えた。  (あれ?私……お部屋で寝てたんだっけ?)  まだはっきりとしない頭に、朱い瞳が思い出される。  (あっ!そうだ!私、苦しくなって……)  橙姫にその時の苦しさが甦ってきた。  最初は小さな咳。  次第にそれは激しくなり、呼吸が出来なくなってくる。  胸が激しい痛みに襲われた。  そして、口の中に広がる苦くて、生暖かい液体。  それは口からも、口を抑えた指の間からも、溢れ出す。  指を伝い、地面へと落ちたそれを見た時、死を意識した。  それは血だった。  自分の体から血と共に、熱と生きる気力が流れ出ていくのが分かった。  死を意識し、体が震え、得体の知れない恐怖に包まれる。  気が遠くなり、体が倒れる。  そこを誰かが受け止めてくれた。  優しく、柔らかに。  かすみ始めた視界にその人の顔が見えた。  心配そうにのぞき込むその瞳は、柔らかな朱い光を称えていた。  (そうだ、あの優しい目は朱鷺……あっ!朱鷺は?)  橙姫は上に掛かっていた上掛けを、跳ね除けながら起き上がる。
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