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「あら、目が覚めた?」
橙姫が跳ね起きるのと同時に、鶯が御簾を上げながら、部屋に入ってくる。
「駄目よ?まだ横になってなきゃ」
そう言いながら、橙姫の方へ近寄っていく。
鶯はどこぞの村人かと思われるくらいに、簡素な服を纏っていた。
これから中納言の妻になろうとも女性がである。
本来なら例え屋敷の中でも、少なからず着飾り、女房達にかしずかれているはずであった。
部屋の外から、女房達の声が、橙姫に聞こえてくる。
「鶯様、橙姫様の御看病は、私どもがやりますのに」
「中納言様に私どもが叱られてしまいます」
それを聞いた鶯が、返事を返す。
「良いのです。私がしたいのですから。中納言様には私から伝えてありますから、大丈夫ですよ」
「では、せめてお召し物を」
「看病をするのに、これほど楽な姿はありませんよ?」
「ですが……」
「良い、と言っているのです。橙姫のお体に障りますよ?下がっていて下さいな」
「分かりました」
女房が渋々ではあるが、そう返事を返すと辺りは静かになる。
鶯はあっけに取られている橙姫に、優しく微笑み、おどけた様に小さく舌を出した。
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