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「ない………。」
俺は、ぼやいていた。肩を落としながら、トボトボ歩きながら、目の下に隈を作りながら、ぼやいていた。
「この世には、もはや存在しないのだろうか………。濃い紅色………深紅………。」
ただ………無性に見たくなっただけなんだ。
「薔薇も…林檎も…スポーツカーも…唇も…クレヨンも…紅葉も…太陽も…全部違う!」
なぜかこの衝動は抑え切れなかった。何日間も無断で会社を休んで探した結果がこれなのか?俺は最初から存在しない色を追い求めていたのか?
「バタンッ。」
カーテンの隙間から陽の光が差し込んでいて、部屋の中は少し明るかった。台所から包丁を取り出し、そのまま俺は寝室に向かった。
「ズブシュッ!」
そして、ベットに横になり心臓を突き刺した。流れ出る血を見ながら俺は少し悟った。
「そうか………。」
俺の体の中にあったのか。だから俺は、きっと見たいと言う衝動に駆られたんだな。いや、駆らされたのか?
この目の前で嘲り笑う死神によって………ああ…それにしても目眩い程に美しい…まさに………深紅の王………
「キン…グ…クリム…ゾ……ン」
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