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そして静かに口を開く。
「OKeyだ。あんたは……」
「俺様はいいや。」
佐助は政宗の言葉を遮り、
「じゃっ」
と、それだけを言って姿を消した。
それはまるで、政宗の手中にある己の主が書いた書状から逃げようとしているようだった。
それが佐助の選んだ道ならば政宗はそれで良かった。
政宗は幸村を思う。
この世で唯一の好敵手だった。この好敵手を殺すのは自分だと政宗は信じ、そうなる事を望んでいたのだ。だが、その好敵手は自ら死に場所を見つけ、果ててしまった。
何とも言えない苦い感情が胸中に沸き起こる。
己の右目を勤めていた男も、好敵手だった男も、昔からの己を知るであろう人間が次々と、自分を置いて逝ってしまった。
政宗の心は大半を虚無が支配していた。
「真田幸村…。」
政宗はそれだけを呟き、己の居るべき場所へと向きを変え足を進めた。
ふと立ち止まり、おもむろに赤く目を腫らした忍が消えた空間へと一つだけしたない目を向けた。
主を亡くしたあの忍はこの後どの道を行くのかと、一部の好奇心と、罪悪感から考えた。
そして自分は、どうするのかと。考える。
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