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汚い血が飛び散る。
あの日、俺は欲しいものと恐れていたものを同時に手に入れた。
愛しい人のぬくもり
耳元では叫び声が聞こえる。そんなのは関係無い。
早く食べきれ、貪れ、貪れ
本能からの伝令。素直に応じる俺の身体。
獣のように、激しく、食いちぎって全て俺のものになるように、俺は必死で舐め取り、貪った。
一瞬、たった一瞬だけ脳内に充満した満足感と征服感。
体の一点に集まった情熱はやがてその全体を熱くした。
しかし、その後すぐに訪れたのは、罪悪感と絶望だった。
そいつらはあっという間に俺を包み込み、深く冷たい、“影”の世界へと引きずり込んでいった。
全て終わった頃にはもう遅すぎた。
俺を守っていたものは全て、音を立てて崩れ去ってしまった。
カッターで肉を掻き切る。
不思議と痛みは無い。
思ったより柔らかくて、弾力性が有って。なかなか思うように刃が進まない。
ようやく血管までたどり着いた刃。
嗚呼、汚い血が飛び散る。
それがふき出す様は、まるで蓋の開いたペットボトルを逆さにしたよう。
生暖かい温度はまるで、あの時抱きしめた、彼女の肌の温もりのよう。
そうか、当たり前か。だって。俺と彼女は同じ血が流れているんだ。
汚い血は、俺の手首からどくどくと流れ出ていった。
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