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◇
「田村さん、田村聖尋樹さん」
「んあっ!」
……夢か。
やばい、寝てた。
名前を何度も呼ばれる。
ガクリと肩を落として目を覚ます。そのザマはまるで、漫画とかでよく見る電車の中で乗り過ごしたオッサンのよう。
いつの間にか寝てしまったのも無理は無い。
◇
『もう我慢できない。別れよう』
『は?っざけんな!何でだよ!』
昨日は夜通し、一方的に別れを切り出した女と命がけのデスマッチをしていた。
そのせいで一睡もしていない。
『理由?別れてぇからだよ!このタコ!』
俺の背中に、女のナイスなドリブルが炸裂する。
『ぎゃああああ!ごめんなさい、ごめんなさいいいい』
デスマッチというか。
女側の一方的なワンマン試合だった。
殴り放題蹴り放題。バイオレンスのバイキング。
更に言ってしまえば、リンチや処刑の類。
未だに残る頬の傷と体中の痛みがその試合の激しさを物語っている。
あれはきっと近隣にも相当迷惑かけたと思う。
……おそらく地元。Y村の伝説として、住民たちに後世に語り継がれるに違いない。
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