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「エッチはどう?」
「変わんないよ。ヤったら満たされて、終わったらカラッポの繰り返し」
そう、ヤッてる時は満たされて、充実して、“思い出して”気持ちいいけど、いつも終わったら酷い虚無感に襲われるんだ。
「そんなんだから直ぐフられんだよ」
「だからさ、俺はアンタとそういう話をしに来た訳じゃないんだけど?」
全くその通りなのだが、仮にも医者の問診でそれを指摘されるのは酷く癪だ。
これはオヤジという生き物には総じて言える事なのだが、常に一言余計なのだ。
その中でも、このオヤジは群を抜いて酷い。
おそらく、コイツの発言には悪意が含まれているのだろう。俺は思う。
「高校は?」
「……まあ、上手くやってる」
「どんな風に?」
「誰も俺の傷を知らないから。このキャラと容姿で人気者さ」
そう。俺のクラスメイト――下々のものどもはこのイケメンの俺様にひれ伏しているのだ!
「親しみ易いもんな。お前の外見」
チッ。クソ医者め。
さっきの表記で読者を騙そうと思ったのに。お前のせいでその計画も全部パーだ。
まあいい。どうせ三人に一人はここを読み飛ばしてるだろう。大丈夫。
とにかく、俺はワイルドなイケメンだ。
「悪いけど容姿は平均だと思うぞ」
くそ!この医者!どっか転勤しろ!
それか。百円やるから少し黙っててくれ!
「人気者……ね」
仕切りなおすかのように咳払いするおっさん。
俺の顔をまじまじと、舐めるように見つめる。
そんなに見つめるなよ。照れちまうじゃん。
「……まさか俺が。本当はこんなんだとは誰も思って無いだろうよ」
トーンを落とす。天井を仰いだ。
言い聞かせた相手。それはオッサンでも、看護婦のおばさんでもなく、俺自身。
学校のみんなに持てはやされされて毎日に浮れている自分への皮肉。
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