一章 到着、小春荘

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桜の花びらがひらりと駅のホームへ舞い落ちた。 僕は列車から降りてその花びらを拾う。 綺麗な花びらをそっと手のひらに乗せれば、それはすぐに風に吹かれて飛んでいった。 「さよなら」 花びらに向かって小さくつぶやく。 そしてもう一言、 「初めまして、新しい町」 長いこと電車に揺られてたどり着いたのは、随分と殺風景な町だった。 「のどかな町だなぁ」 ポカポカの陽気に誘われて、僕はその空に両手を伸ばした。 駅員もいないような駅のホームから階段を降りる。 二十段ほどのひび割れた石段を下りれば、僕の目的地がすぐそこに見えた。 「小春荘、ここだ!」 ここから僕の大学生活がスタートするんだ。 僕の胸はそう、まさにはちきれそうな程高鳴っていた。 これから四年間を夢見るだけで胸がときめくのだ。 そんな妄想に陶酔していると、すぐ横を女の子が通りすがる。
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