十四章 夕刻、欠けてゆく夢

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すみれはそう言うと一瞬だけ寂しげな顔を見せる。 するとすみれは言葉を反転させるように、笑顔すらも消えた顔で話し始める。 「いいえ…戻らないで。町を出て…今すぐ!」 その目は今までのすみれの穏和な表情を覆すものであった。 強く鋭い目と強い声、それは彼らが見てきたすみれの姿とも、全く異なるものだった。 「すみれさん…まさか…」 「早く!急いで!」 そんなすみれを見て美月は耐えきれなくなった。 「あなた!今何してるかわかってるの!?」 「いいから!私に構わないで!取り返しのつかなくなる前に!」 「あなたも逃げなきゃ!」 美月がそう言うと、すみれは笑顔を見せる。 そして美月の頭を撫でて続けた。 「優しい子。私はあなたを知らないけど、あなたは何でも知ってるのね。なら、あなたが導くのよ。さぁ、お行きなさい」 美月は涙目のまますみれに背を向ける。 「行きましょう」
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