―魔封師転生―

2/5
73人が本棚に入れています
本棚に追加
/101ページ
江戸・明治の佇まいを残す町根津。根津権現の参道から露地を入ったところにひっそりと建つ古い日本家屋がある。いつからそこにあるのかわからないが格子の脇をみると看板が掲げられている。長きにわたり、風雪に耐えたであろう、かすれて読みにくい文字はこのように読めた。「幻夜堂」と。 何を生業(なりわい)としているのかわからない、ともすれば陽炎とともに掻き消えそうな家である。 格子をくぐり、中に入ると何やら怪しげな文字の書かれた衝立てがあり、左右に廊下が伸びている。右に進路をとると突き当たりに南京錠のおりた小部屋がある。 所謂「納戸」であろう。少し力を入れると錆付いた南京錠は崩れるように外れた。静かに戸を開けるとギイィィと軋みをあげる。中に入ると江戸時代からの埃が嬉しそうに舞い上がる。皿・壺・書物。雑多に詰め込まれた荷物をどけると小さな葛籠がみえた。蓋に手をかけ、そっと開けると一冊の和綴じの写本が納められていた。青い表紙には何も書かれていない。ゆっくり頁を繰ると扉に草書で次のように書かれていた。 『魔封師幻夜堂百物語』
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!