―魔封師転生―

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その頃、根津権現にほど近いところに一人の老人形師が住んでいた。名を源助、「傀儡堂(くぐつどう)」と号した。齢百を越すのでは、と思われる白髪の翁で、この翁には曾孫ともみえる、蝶吉という弟子があった。この蝶吉には生まれながら、胸に不思議な形の痣があった。 その痣は、二本の角を生やした「鬼」の顔、その下に剣が十字に交差したような形にみえた。まるで鬼を晒し首にしたような不気味な痣である。蝶吉は特に気にも留めてなかったが、元服を迎えたこの年、痣がにわかに赤みを帯び、まるで痣の輪郭に沿って焼け火箸を入れられているような激痛に襲われ、三日三晩高熱にうなされたのである。師である源助は特に看病する素振りも見せず、ただ蝶吉を見つめ続けた。四日後、薬を飲んだわけでも、医者の手当てを受けたわけでもないのに彼の熱は下がり、この三日間がまるで悪夢であったかのように清々しい朝を迎えた。ただ一つ彼の体に変化があった。それは、痣が一回り大きくなり、鬼の首を突き刺しているようにみえる剣の柄に、はっきり「魔封師」と読める文字が浮かび上がったことである。 この朝が、深川百万坪にあの「白粉婆」が現われた翌朝であった。
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