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―死にたいなあ‥
私の思考を死に近づける張本人が、今まさにとなりで寝息をたてている。
―私が死んだら、あんたは泣くかなあ。
‥‥
「おはよ」
朝食の準備をしていたら、いつのまにか起きていたようだ。
「おはよう」
いつも、小林は起きると一直線に冷蔵庫へ向かう。
冷蔵庫に入っていた缶コーヒーを飲みながら、小林が作りたての卵焼きをつつき始める。
今日はイタリアンドレッシングを入れたのだ、
私も小林もドレッシングを入れた卵焼きは好き。
―気付くかな‥
私はあからさまに小林を見つめる。
何かが違う、と気づかせたいのだ。
「何?今日誕生日?」
「ちがう」
「うーん、今夜エッチとか」
「‥帰ってこないくせに」
「わかった、実家帰りたいんでしょ!
そんなン手紙置いてってくれればいいから、
ゆっくりしてきなよ」
朝食を済ませた小林が洗面所へ向かうとき、私は小さな声で、「たまごやき」とつぶやく。
大丈夫大丈夫、いつものこと。
泣いてはいけない、こんなことで。
午前9時、ドアの閉まる音は、小林がバイトと称した浮気相手のモトへ行く合図。
多分、今日も帰ってこないだろう。
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