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風の渦は、段々と人の形へと変わっていった。その風は、風の神だと少女は思った。それは、姿を見ただけで神なら誰でも分かるほどだった。風の神は、淡い水色の袖が手に下りるほど広がるまるで着物のようだった。しかし、着物とは違い、丈が短く、下に短パンを履いていた。だが、もっと似合わなかったのが、腰に剣をさしていた所と、長の美貌と同じぐらいの美しさなのに、髪をポニーテールにし、顔が冷たい言葉しか声にしないほどの冷血な顔だった。少女は、そんな冷血な顔を見たのにも関わらず、後退りもせずにいた。人はそれは、腰が抜けたのだろうと思ったかもしれないが、そうではなく、心の美しさを見抜いたかもしれない…。少女の目は風の神の冷たい瞳をしっかりと見つめていた。その時の事を風の神は、少女に心を奪われたと優しく微笑みながら照れて語った。
「あなたは、何をしに来たの?」
ふと少女は、薔薇のように赤い唇を動かす。風の神は、はっと少女の言葉で見とれていた自分に気付いた。
「半神人であるお前を西の魔女クレハに生け贄として捧げるために捕まえに来た。」
風の神の使いし風が少女の周りを囲む。風は長いロープのように少女の体に巻き付く。少女はそんな中でも目を瞑り、恐怖に怯える気配さえない。風のロープは、少女の体に巻き付き終わり、少女は身動きさえまともにとることはできない。そんな中、ついに少女は目を開け、口を開いた…。そして、誰も知らない言葉で歌を歌った。それは、遠い昔の言葉の歌…。
私を忘れたの
なら思い出して
遠い記憶に眠る思い出を
あなたが旋風だった日
私は人間だった
あなたがあの日
私を見つけ出した風
忘れないで
私との草原の思い出を
思い出して
故郷の子守歌を…
すると、風のロープが緩み、少女の差し出した手のひらにクルクルと集まった。少女の歌は、風の神には知らぬ言葉でしか聞こえなかっただろう。だがこれは、風の古い真の言葉の歌…。まるで、オルゴールの音色の歌声…。それは、風の囁きの言葉…。風の神は、唖然とし立っている。少女は、自分の発した言葉に驚いた。自分でも知らない言葉を自ら発したのだ。だが、何となく懐かしいと少女は思ったのか、目を瞑り、また歌い出した。まだ顔も知らぬ、母の子守歌を歌っているかのように…。
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