僕がページをめくる度

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 「ペラ…、ペラ…」    今日は平日ということもあり、図書館は人気がなく、潤がページをめくる音がやけに静かな図書館に響き渡っていた。    坂下潤、24歳独身。今年の春に東京の大学を卒業して大手化学品メーカーの研究員として働きだした。 趣味は読書以外なく、仕事が休みの日はいつも図書館で本を読んでいる。平均すると年間百冊は優に越えている。 読んでいるジャンルはもっぱら歴史小説で、司馬遼太郎や吉川英治はほとんど読み終えている。    そんな潤は、今まで恋愛などしたことがなかった。 そもそも潤にとって恋愛は邪魔なものという意識が強かったのだ。同級生たちは恋愛に没頭するあまり勉学を忘れ、大学受験に失敗したとまで思ってる。 また恋愛による男女のトラブルなど、潤の恋愛に対するイメージを悪くする材料はどこにでも転がっていた。 そうした結果、24年間、学生時代は勉強、社会人になってからは仕事と研究、そして趣味の読書に明け暮れ女性に対して何の思いも抱きはしなかった。    ただ、潤は「女性」というものには興味を示さなかったが、「恋愛」という未知なるモノに対しては大きな関心を抱いていた。 恋愛は邪魔なもの、でもいつかは経験してみたい。 いつしか潤の心にはそうしたジレンマが存在するようになっていた。    そうした興味からか、潤は本という媒体を通して多く作家たちの恋愛観や恋愛術を学び、自分の中で理想的な「恋愛」というものはこういうものだと構築していった。    そして、いつしか潤は、今の自分なら完璧な恋愛ができると自信に満ち溢れていた。
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