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ある日、K国のA2型大陸弾道ミサイル『アネモネ』の一基に意識が芽生えた。
新型特殊核弾頭を搭載し、広範囲にわたる破壊と殺戮を目的として造られたミサイルは思った。
>>世界中の人たちを幸せにしてあげたい
しかし、彼または彼女 ─ どちらでも構わないのだが ─ はミサイルだ。
自分が誰かを幸せにできるとしたら、ミサイルとして敵国に撃ち込まれ、その真価を如何なく発揮し尽すこと、つまり自分の「死」と引き替えにたくさんの人を殺し焼け野原をつくる事だ。
そうすれば、少なくとも自分を作った人たちは喜んでくれるだろう
アネモネは泣きたくなった
死ぬ事が悲しいのではない
自分が死ぬ事でさらなるおびただしい死が生まれ、そのおびただしい死によって幸せや平和が生まれる事が悲しかった
自分は、誰かを殺さずに誰かを幸せにできるようなものを何ひとつ持っていないのだろうか
アネモネは自分の制御システムから広大なネット空間へと分け入り、あらゆる情報にアクセスし長い間考えた
>>自分の名前くらいだろうか
アネモネ
そうだ、きっと自分の名前は花の好きな誰かを幸せな気持にするだろう
A2型ミサイルは少し嬉しくなった
自分の名前を花の名前にしてくれた誰かに感謝したくなった
しかし、すぐにあることを思いだした
それはアネモネを絶望させた
自分は街を焼き尽し、人を焼き尽し、自然を焼き尽して咲く灼熱の花なのだ
彼または彼女が炸裂した時に拡がる閃光が、アネモネの花に似ているところからA2型ミサイルの名前はアネモネになった
新型特殊核弾頭搭載大陸弾道ミサイルは思った
もし、自分がアネモネの花に生まれ変わったとしても、誰もいない瓦礫と焼け野原にさびしく咲くしかないのだと
ある日、K国のA2型大陸弾道ミサイル『アネモネ』の一基が、原因不明のシステム誤作動により発射されてしまった
ミサイルは成層圏に到達する直前に同国の軍事衛星により撃墜された
それから何日かが過ぎた
ある町に季節外れのアネモネの花が一輪咲いた
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