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「ひ……りょ……う……」
途切れ途切れの声が一枚壁を挟んだ向こう側のような、やや遠くから聞こえる。しかしそれは何処かで聞いたことがあるような、そんな気がする声だ。
(ん~……肥料?)
何故そんな単語が今出て来るのか、言いたい事はサッパリわからない。そして、どういうわけか声が上手く出ない。
「ひ……りょ……す……け」
声は徐々に鮮明になっていっているようだが、やはりその言葉の意味はわからない。しかし、心当たりはある。
何故かよく聞いている言葉のように思えてならないが……。
「比嘉涼介ぇ!!」
「うぅわっ!!」
そう、それが自身の名前だと気付いた時にはもう既に手遅れだった。
聞こえていた声が急に大きくなって意識が覚醒し、視界はぼやけて見え辛いがそれもすぐにクリアになっていく。頬に熱が残り、見ると前で組んだ腕に頬が当たっていたのだろう跡がある。
どうやら授業中に突っ伏して熟睡していたらしい。
頭上に掛かる暗い影。恐る恐る顔を上げてみると、そこに般若……を、想わせる白衣を来た女性が腕組みをして睨み下ろしてきていた。
(嘘だろ……)
やってしまった感は否めない。周りで男女問わず殆どの生徒が陰でクスクスと笑っている。
「ああ……私の授業で爆睡とは良い度胸だな、ぇえ!!?」
無駄に迫力のある声が斧のように振り下ろされた。
その声量と怒気に背筋が凍り付き、半開きになった唇が無意識の内にワナワナと小刻みに震え出す。
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