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「やっぱりお前も笑えるだろ、光司?」
獅郎はまだ笑っている。まったく……付き合い切れない、肘をついてそっぽを向く。
「あんまり笑っちゃダメだよ、獅郎」
光司はもう笑ってはいないが笑顔だった。いや、光司はいつもこんな顔だ。
「ありゃ、怒ったか涼介?」
「うるさい」
「悪い悪い、でも美味しいかもしれないぞ?」
「はぁ!? なんでだ?」
笑いは止まったものの獅郎の顔はまだニヤついていた。こういう時は決って不埒な考えをしている場合が多い。
「考えてみろ、暁高校きっての美貌と抜群のスタイルをもつあの奈美姉さんの個人的呼び出し、個人授業♪」
「…………」
案の定、不埒な考えを巡らせていたらしい。もうため息すら出ない。
「ムフフやないですの、あんさん♪」
変な関西弁、獅郎の顔はもはや変態の領域に入っている。
「じゃあ替わってやろうか?」
「いや、遠慮しとく」
一瞬で真顔に戻って棒読み。わかりやすいが、なんなんだコイツは。
そんなこんなしている内に時間は過ぎ、休憩時間の終了を告げるチャイムが鳴る。
「次の授業ってなんだっけ?」
「現代文だよ」
光司はスラっと答える。武田のじいさんか……よし、寝よう。そう決心する。
「俺、寝る」
「えっ、またかよ涼介!? 寝不足なのか?」
「そういうわけじゃないけど、まぁなんとなく」
悪夢の前に良い夢を観ておきたい、ただそれだけだ。午後の初夏の陽気、冷房も点いてないせいもあるが寝るなと言う方が無理な話。
さらに高齢でひ弱なためか現代文の武田は授業態度についても甘い。
「あ、涼介~」
光司のそんな声が聞こえた気がしたが、突っ伏すとすぐに意識は離れていった。
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